西森博之のおすすめ作品5選!キャラが面白くて強い傑作漫画

更新:2021.11.25

西森博之は数々のヒット作品を生み出している長寿漫画家です。そのストーリーは個性的な面白さと爽快感、魅力的なキャラクターがいっぱいです。「西森ワールド」を堪能できる作品を紹介します。

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独特の魅力を持つ漫画家、西森博之

西森博之は1963年生まれの漫画家です。千葉県出身ということで千葉県が作品のあちこちに出てきます。おおむね田舎という描かれ方ですが……。

初の週間連載『甘く危険なナンパ刑事』はすぐに連載終了してしまいましたが、この作品の主人公相沢をそのまま高校生にしたようなキャラクター三橋が登場する『今日から俺は!!』が大ヒットし、38巻まで続く人気作品になりました。その次回作に当たる『天使な小生意気』では小学館漫画賞を受賞しています。

独特の絵柄を持つ漫画家で、最初は漫画家としては絵が下手な部類に入っていたと思いますが、パワフルなストーリーはその欠点を補って余りあるものがありました(『天使な小生意気』あたりから、画風が少しずつ整ってきており、とくに女の子がかわいらしくなってきます)。普通の高校生が不良デビューを果たすとか、不良が茶道部に入るとか、ヤンキーの活躍する話が多く、設定もシンプルなのですが不思議なほど読者を飽きさせない力を持っています。

西森博之の不良漫画・金字塔!『今日から俺は!!』

映画化、アニメ化もされた1990年代の人気漫画です。古い漫画ですがいつ読んでも面白い漫画といえるでしょう。西森作品に特徴的な高校生不良の物語。基本ギャグマンガであり、エグイ表現がほとんどないため女性でも安心して読むことができます。

話の発端は単純。普通の高校生活が自分にふさわしくないと感じていた三橋貴志は転校を機に髪を金髪にし、「今日からツッパリ」の仲間入りをします。時を同じくして伊藤真司もまた、転校を機に髪を上にとんがらせたトゲ頭をつくりあげ、「今日からツッパリ」に。

同じ軟葉高校に転校した二人はさっそく不良グループに目をつけられるのですが、コンビを組んで撃退。その後も先輩や同地区の不良達を次々と倒していくうち、いつしか「軟高の三橋、伊藤」として千葉県のツッパリ界隈では知らない者はいないという存在感を放つようになります。

 

著者
西森 博之
出版日

そんな二人の性格は実は正反対。一方の三橋は頭を使った喧嘩をし、ヒキョーモンと揶揄されることもあります。手が早く、気に入らない人間にはすぐつっかかる短気な性格です。家は貧乏で、お父さんはしがないサラリーマン。そのせいか、金にがめつく、おごってくれる人にほいほいついていくところがあります。おかげでいろいろなトラブルに見舞われることも。伊藤よりもハンサムな設定ですが、性格がわがまますぎてほとんど女の子が寄り付きません。同級生の赤坂理子と両想いなのですが、なかなか素直になれず関係が発展しないまま。

一方の伊藤は正義感にあふれた温和な性格。挑発されても理由がなければめったに喧嘩をしません。策略や多対一の喧嘩を嫌い、殴り合いのときも正面からの突進が多く、意地で勝利を収めるタイプです。三橋と違い家はお金持ち。温厚な性格から女子にも好かれ、ラブレターをもらうこともしばしばです。早川京子という美人の彼女がいますが、まじめな性格のためプラトニックな恋愛に終始します。しかしラブラブな雰囲気はモテない(と思い込んでいる)三橋をよくいらだたせます。

一見全く合わなさそうに見える二人、実際小競り合いの喧嘩は日常茶飯事で、意見が分かれ、本気でぶつかりあうこともあります。

ある時伊藤は不良グループの制裁を正義感から仲裁します。制裁を受けていた生徒は、伊藤を慕って軟高に転校してくるのですが、実は彼は伊藤にやられたグループが伊藤を倒すために送り込んだスパイでした。疑り深い三橋はこの転校生をスパイと言い切り、伊藤にさんざん忠告するのですが、伊藤は「信じてください」と涙ながらに訴える転校生をかばい続けます。そして、転校生の暗躍で伊藤は敵が待ち伏せする帰り道に誘導されるのですが、そこに待っていたのは罠を見越した三橋の姿でした。伊藤は騙しやすかっただろうという三橋に、あんなに騙されやすいバカはいないと嘲る不良たち。そこでいきなり三橋は敵を殴り倒します。

「テメーなんかに言われたかねー!テメーにアイツの何が分かるんだよ!」

「あいつはアレでいいんだよ」

普段伊藤をおちょくっている三橋とは思えない言葉。この時折見せる強い信頼感がたまりません。デコボココンビが見せる笑いと(時々)感動のストーリーを楽しんでください。

『今日から俺は』については<原作『今日から俺は!!』が最高に面白い!登場人物の名言、名シーン徹底紹介>で紹介しています。

西森博之の代表作!強くて綺麗なヒロインが魅力『天使な小生意気』

小学館漫画賞を受賞し、アニメ化、ゲーム化も果たした西森漫画の代表作です。強くて美しい主人公の天使恵(あまつかめぐみ)と彼女が好きすぎる幼馴染・花華院美木(はなかいんみき)、そして恵に惚れている男子4人の日常と冒険を描くラブコメディです。「男らしさ」「女らしさ」について結構深い問いかけが潜んでいる作品でもあります。

ある日子供にいじめられている老人を助けた元気な少年天使恵。魔法使いの恰好をしたこの変な老人は助けてくれたお礼にといって「天の恵」という怪しげな本をくれます。本を開くとピエロのような恰好をした男が現れ、願い事を一つだけなんでもかなえてくれるというのです。恵は「男の中の男にしてくれ」と頼むのですが、魔法使いは恵を女の中の女にしてしまいます。元に戻してほしかったら寿命をいただくと言われ、怒った恵は本を捨ててしまいます。しかし家に帰ってみると自分は初めから女だったことになっていました。願いごとをするとき居合わせた幼馴染の少女花華院美木以外は、恵が男だったことを誰も信じません。

 

著者
西森 博之
出版日

それから6年が経ち、女の中の女としてスーパー美少女に成長した恵は美木とともに「天の恵」を探し続けていました。真の姿、男に戻るために。

本の手がかりを得るために入学した高校、そこで恵に一目ぼれしてしまったのが蘇我源造という不良でした。そして平凡な高校生の藤木、変態の安田、現代武士を目指す小林もまた恵に夢中になります。彼らは恵の過去を知り、恵のために「天の恵」を手に入れようと頑張るのですが…

美少女なのに、とても強く純粋な恵も魅力的ですが、この物語の本当の面白さは主人公を取り巻いている他のキャラクター、美木、蘇我、藤木、安田、小林の成長過程にあると思います。

たとえば幼馴染の美木。彼女はいつも冷静沈着で感情を表に出す恵に「そんなんじゃだめよ」「女の子はもっと駆け引きしないと」と少年的な恵の行動をいさめていました。飄々としているように見えた彼女ですが名家のお嬢様である美木には決められた許嫁がいたのです。許嫁は顔も見たことがない金持ちの息子。恵はそんな結婚は認めないと怒りますが、美木は自分が決めたことだ、邪魔をされると本当に困ると言い切ります。

しかしどんなに迷惑だとはねつけられても、恵は自分の信念を曲げません。蘇我達を巻き込んで、

美木の婚約をぶち壊すために動き回り、とうとう婚約相手の岳山が最低な男だということを暴きます。家のためを思い、「何てことしてくれたのよ!」と恵を怒鳴りつけようとする美木。しかし恵の「大丈夫、どんな手を使っても守って見せる」という言葉にこらえていた涙があふれます。

「ホントウハズットイヤダッタノデス…」

かたくなに自分を殺していた美木が解放されていくシーンは胸に迫るものがあります。

一方恵に気に入られようとドタバタする男たちの姿は爆笑必死。コメディとしてもシリアスとしても楽しめる作品です。

『天使な小生意気』については<『天使な小生意気』5分でわかる魅力!本当は男性!美少女の日常?漫画【全巻ネタバレあり】>の記事で紹介しています。気になる方はぜひご覧ください。

抱腹絶倒の現代武士物語『道士郎でござる』

全8巻と短いながら、西森テイストを存分に味わえる『道士郎でござる』。西森博之が「和」を前面に押し出してきたのはこの作品からです。

空港で息子との12年ぶりの再会を心待ちにする桐柳真理絵。彼女の夫は幼い息子をアメリカネバダに連れ去り、音信不通だったのです。どんなアメリカンな息子に育っているのか、身構えていた真理絵は現れた息子・道士郎の姿にあっけにとられます。服装から言葉遣いまで「日本の武士」になり切った息子が立っていたからです。

父親の目的は真の日本人を育てること。アメリカ原住民と暮らしてきた道士郎は驚異的な身体能力と間違った日本の知識を身に着けて日本に帰ってきました。ちょんまげや殿様が存在しない日本にがっかりする道士郎でしたが、ひょんなことから同級生の小坂建助を主君と定めます。その日から凡人だった建助の人生は一変。不良や教師、はてはヤクザとの戦いにまで絡んでいくことになるのですが……。

著者
西森 博之
出版日
2004-08-06

この漫画は『道士郎でござる』というタイトルながら、実質道士郎の主君にされてしまった建助の成長物語です。凡人だった建助が道士郎と出会ったことで、普通の道を外れていきます。

名場面は5巻で開かれる級長会です。ヒロインであるエリカの窃盗疑惑を晴らすため、教師を殴ってしまった道士郎に付き合い、不良高校に転校する建助。そこで並外れた腕力を持つ道士郎に殿と慕われる建助はまわりの不良から強い奴なんだと誤解されてしまいます。そんな建助はいつの間にか不良クラスの級長に抜擢されていました。

この不良校、各クラスから上級生のクラスに月100万おさめなきゃいけないというとんでもないルールがあったのです。級長はその献金のまとめ役。金の話のため級長会に呼び出された建助ですが、要求を拒否するとクラスメイトの中でも喧嘩の弱い佐東がよびだされました。上級生は佐東に建助が本当は弱いことを暴露します。騙していた建助を殴るよう促される佐東ですが、弱いながら自分をかばってくれた過去のある建助を尊敬すると言い切ります。

「俺はクソだけど、そこまで弱くなりたくない。」

西森作品で感じる、弱いキャラが意地を張る名場面です。この佐東の思いに応えたい建助は弱いながらも、クラスメイトとともに上級生グループに立ち向かいます。

喧嘩一つしたことがない建助ですが、道士郎に殿、殿、といわれるうち、建助を支持する人々が次々生まれてくる不思議。そしてしかたなく強いフリをしていた建助が徐々にハッタリを本当にしていく面白さ。「アメリカから武士がやってくる」という導入からこれだけ爽快な物語を作れる西森博之に脱帽する作品です。

西森博之が「優しさ」を問う、意外と深い漫画『お茶にごす。』

「名の知れた不良が茶道部に入る」という設定だけ見るとたいして面白くなさそうな漫画ですが、これが実に切なくて深い物語になっているのです。

中学校では名をはせた不良の船橋雅矢、通称「悪魔(デビル)まーくん」。その恐ろしい容貌から、一目見ただけで周囲の人を怖がらせていました。しかし本人は高校に入ったら暴力とは無縁の平和な生活をしたいと望んでいます。部活動の新入生勧誘の列に混じる雅矢でしたが、その外見からどの部活も彼に声をかけてはくれません。

しかし唯一雅矢にしり込みせず、お茶を進めてきた人がいました。茶道部部長、姉崎奈緒美です。彼女に興味を持った雅矢は幼馴染の相棒、山田航とともに茶道部に入部することを決めます。

そんな彼らに敵対心をむき出しにしている新入部員が浅川夏帆。彼女は短気でけんかっ早い自分を改め、姉崎部長の落ち着いた優しさを見習うために茶道部に入ったのです。雅矢達が茶道部を荒らすのではないかという疑いを持ち、自分が部長を守るのだと何かと雅矢にかみつく夏帆でしたが次第に雅矢の本質に気がついていきます。

著者
西森 博之
出版日
2007-08-10

雅矢は外見は怖いものの、本当は純粋な正義感の持ち主。部長の優しさに魅了され、彼女の優しさを身に着けたいと愚直に頑張る雅矢の姿は夏帆と似ていました。そして雅矢の部長へのあこがれの気持ちは次第に恋心へと変わっていきます。

雅矢、夏帆は「優しい人」を目指すため、いろいろ悩みます。その過程は読者にも「優しさ」って何だろうと問いかけてくるようです。舞台設定はいつもの西森ラブコメですが、この漫画に関してはかなり哲学的な部分があります。

合宿先の禅寺で、不良コンビとであう雅矢達。彼らは更生を説いてくる寺男をうっとおしくおもい、不良を辞めたいがチームを抜けるためには制裁を受けなくてはならないと嘘をつきます。彼らの代わりに殴られることを申し出る寺男ですが、あとでネタ晴らしを受け愕然。事情を知った雅矢と航は怒り、不良チームを倒しに行こうとします。それを見ていた部長は暴力の気配を感じ、体を張って2人を止めようとします。

「暴力からは何も生まれませんよ!」

しかし二人は彼女をかわし、出て行ってしまいます。不良チームを壊滅させた雅矢ですが、部長の制止をおしきって来たことに罪悪感を感じ落ち込みます。航の提案で部長には話し合いで解決したと嘘をつきます。その言葉に部長は

「よかった!」

と純粋に喜ぶのですがこれがまた雅矢を考えさせるのです。部長が本当のところを察してこのセリフを言ったのではないか、本当に優しい人というのはこういう人なんだと。

笑えるシーンももちろんたくさんありますが、この漫画にはコメディ以上に見るものがあります。

今度は現代にお姫様がやってきた?『柊様は自分を探している。』

『道士郎でござる』が現代に武士がやってきた漫画なら、これは現代に戦国時代のお姫様がやってきた物語といえるでしょう。道士郎が戦うことしか知らない単純な男だったのに対し、このお姫様はけっこうな腹黒。美少女ながらめっぽう強く、わがままながら妙な威厳のある柊様のファンタジーコメディです。

男女問わず人気がある誠実でカッコいい高校生白馬圭二郎(はくばけいじろう)。よく女の子から告白されるものの「女性には全く興味がない」と断る日々。

そんなある日彼は公園で息をのむような美少女と出会います。その美少女にはただ美しいだけではなく、何者に対しても折れない強さがありました。その証拠に、周りには彼女に倒されたとみられる地元の不良の姿が。

著者
西森 博之
出版日
2016-07-12

裸足の彼女に履物を持ってきた圭二郎はうながされるまま、サンダルを彼女の白い足にはかせてやります。その様が気に入ったから家来にしてやると言われ冗談まじりに了承する圭二郎。しかしこの言葉、彼女=柊様にとっては冗談ではありませんでした。柊という名前以外一切の記憶がない彼女を自宅に住まわせ、家来として仕える日々が始まるのですが……。

強い美少女と主従関係という構図は『天使な小生意気』+『道士郎でござる』といったところでしょうか。模造刀を素手で曲げる怪力な柊様の正体は人ではないらしいので、ファンタジー要素も絡んできます。

そして今までの西森ヒロインにはないちょっと「黒い」魅力にあふれた柊様。人気者の圭二郎を従えているため、女子からいじめの対象にされます。ところが、柊様はいっさい抵抗しません。隠された靴の数がかさんだころ、いじめグループの一人に目をつけます。いじめられたときでも、このひとりにだけ視線を送り、微笑む。これを繰り返していくうち、この女子は恐怖を感じ始めます。あの女はいつも私を見ている……。怖くなった彼女が非常口に逃げ込んだとき、いきなり柊様に後ろから抱きかかえられます。

「靴が10足駄目になった、これは子供のいたずらで済むかのう。」

なんと柊様は問題が大きくなるまで、わざといじめを放置していたのです。その迫力に膝を崩すいじめっ子。女どうしの陰湿ないじめも一刀両断にする柊様。そんな彼女の爽快な姿がみられる作品です。

西森作品は高校が舞台のコメディと設定が似ているものが多く、どれも同じに見えるかもしれません。でも実はそれぞれに違う個性があり、どれを読んでも面白いです。同じ設定でほかの漫画家が描いても、これほど面白くはならないでしょう。西森漫画独特のテンポを楽しんでください。

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