代表作『SLAM DUNK』によって、日本中にバスケットボールブームを巻き起こした井上雄彦。真に迫る彼の筆致は読者を惹きつけて離さない魅力を持っています。そんな彼が紡ぎ出す魅力にあふれた作品の中でも特におすすめの5作品を紹介します。
鹿児島県出身の漫画家で、本名は成合雄彦。1988年に『楓パープル』で手塚賞に入選し、漫画家としてデビューしました。
高校生の時に、当時はまだメジャースポーツではなかったバスケットボール部に所属して汗を流し、同時に漫画家への道を志していたそう。バスケ部時代、井上自身はそれほど背が高くなかったため、ポジションはガードが多かったのだとか。
大学は本格的に漫画家を目指すため途中退学し、鹿児島より上京。当時『シティハンター』で人気を集めていた北条司のアシスタントを務めるなどしていたそうです。
デビュー後は、1990年から連載を開始した『SLAM DUNK』をはじめ、『バガボンド』、『リアル』などといった人気作を次々と世に送り出しています。
ニューヨークを舞台に、危険請負人(リスクハンター)ジェイルの活躍を描く本作。原作は渡辺和彦によるもので、「週刊少年ジャンプ」にて1989年に連載されていました。2004年には、井上雄彦自身が新たに表紙を書き下ろした「新装版」として発売されました。コミックスは全2巻、新装版は全1巻で完結しています。
- 著者
- ["井上 雄彦", "渡辺 和彦"]
- 出版日
- 2004-11-19
「警察では処置できない 誘拐・テロリズム・殺人の防止などありとあらゆる危険に対処する犯罪阻止のプロフェッショナルたち そんな中で一匹狼の『史上最強』といわれる奴がいた!」(『カメレオンジェイル』冒頭より引用)
この冒頭文だけで、スリルとアクションの香りがしてきますね。
主人公のジェイルが生命エネルギーを爆発させることで肉体を自由に変化できる、という設定がなんとも斬新! 容姿が変化するから「カメレオン」というのも納得です。犯罪を阻止するために、肉体を変化させて活躍するジェイルの物語は12話で完結しますが、読み応えたっぷり。
また、今作については、原作が別にあるため井上雄彦は作画のみ担当していますが、その画力は当時から顕在。人物1人1人を丁寧な筆致で描いているため画面が見やすく、全体として読みやすいのもポイントです。スカッと爽快になれる物語を探している人は、一度手に取ってみることをおすすめします。
さらに、初期の作品や『SLAM DUNK』連載時の読み切り短編も同時収録されているので、それだけでも価値のある一冊といえるでしょう。
タイトルの「ブザービーター」とは、試合終了のブザーが鳴る直前や鳴ったと同時にゴールに入るシュートのこと。今作は、スポーツ専門のCS放送局「スポーツ・アイ ESPN」(現「J SPORTS」)のホームページ上で1996年に連載された、当時では珍しいWEBコミックです。1997年より「月刊少年ジャンプ」に再録掲載後、単行本化されました。
- 著者
- 井上 雄彦
- 出版日
未来の世界での物語で、バスケが全宇宙で愛されるスポーツになっています。「宇宙リーグ」なる宇宙規模のバスケの大会や、たくさんの異星人の登場、主要人物の髪の色が青などと、バスケだけだなく現実から浮遊したようなSF要素も満載。井上雄彦がこれほどSFを取り入れている作品は珍しいのではないでしょうか。
さらに主人公であるヒデヨシの人物像も何とも魅力的です。負けん気が強く、いつも偉そうな態度で生意気なガキ、だけどバスケはむちゃくちゃうまい! 古き良き少年漫画の王道の主人公像そのままで、読んでいて安心感があります。ちょこちょこライバルのチャチェと言い争いをするのもほほえましく、はらはらするというよりも腰を落ち着けて読める作品です。
フキダシやセリフなどが手書きなのも味があるうえ、オールカラーで楽しめるのもWEB漫画という礎があるからこそ。物語の展開にワクワクして、ホロリとして、アツくなれる良作。バスケ好き、SF好きはもちろんすべての人に、ぜひ読んでほしい一冊です。
「週刊ヤングジャンプ」にて1999年から不定期連載されている、車いすバスケットボールを題材にした話題作です。主人公である戸川清春、友人を半身不随にしてしまった野宮朋美、自らも車いす生活を余儀なくされる髙橋久信の3人の物語を軸にスト―リーが展開していきます。
- 著者
- 井上 雄彦
- 出版日
- 2002-09-18
「車いすバスケ」という、ともすれば重くなりがちなモチーフを使っていますが、随所に井上雄彦らしい笑いが盛り込まれています。人間味あるキャラクター達のそれぞれが「リアル」に描かれていて、感情移入しやすく読みやすい作品です。冷や汗がタラリと描かれたり、驚いた時には効果線を有効に使うなど、分かりやすい漫画的記号を多用している点も、今作が幅広く支持されている理由ではなでしょうか。
障害のある人物を描くので当然重い話もあるのですが、バスケのシーンではワクワクさせてくれたり、リハビリを頑張る姿に勇気をもらったりと、自分もその場にいるような臨場感が味わえます。主要3人物の周りを囲む人物たちにもそれぞれにエピソードがあり、それが本筋としっかり絡まってくる、骨太な作品です。
漫画はフィクションですが、現実と同じく、迷ったりくじけたりしながら懸命に生きていく人間の姿が描かれています。ちょっぴり立ち止まってしまった時におすすめです。
吉川英治の小説『宮本武蔵』を原作とした歴史漫画で、戦国時代の末期から江戸時代への転換期を舞台に、剣豪、宮本武蔵の一生を描き出しています。1998年より「モーニング」にて連載がスタート。「バガボンド(英:vagabond)」とは、放浪者、漂泊者という意味があるそうで、まさに本作にぴったりのタイトルですね。
- 著者
- 井上 雄彦
- 出版日
- 1999-03-23
単に人気の高い宮本武蔵をテーマにした漫画でないことは確かです。天下無双を目指して剣の腕を磨き、幾多の闘いと人との出会いを通して成長していく物語は、まさに宮本武蔵の一大叙事詩といえるでしょう。強い人間を求めて斬り合う怒涛の展開は、圧倒的な筆致で描かれていて、それだけで読む価値あり。
また、人間味あふれる武蔵が魅力的なことはもちろん、武蔵の幼馴染である又八も愛すべき人物です。
幼い頃には武蔵と同じほどの剣の腕を持っていた又八ですが、酒と女を覚えて堕落し、剣から遠ざかることで開いてしまった武蔵との距離に葛藤し、嫉妬し、羨望しながらも武蔵との繋がりを切り捨てることができません。
圧倒的に真っ直ぐな武蔵と比べて、回り道をして楽な方へ流れてしまう又八は一見だらしなく思えてしまいますが、否定しきれない人間味の溢れており、つい共感してしまう人物です。又八が間違ったり迷ったり、人を羨んだりする心情は誰しも経験があるのではないでしょうか。
「ただ真っすぐに一本の道を進むのは美しい。じゃが普通はそうもいかぬもの。迷い、間違い、回り道もする。それでええ。振り返って御覧、あっちにぶつかり、こっちにぶつかり、迷いに迷ったそなたの道は、きっと誰よりも広がっている」(『バガボンド』より引用)
又八の母であるお杉がこう語るシーンがありますが、この言葉に救われる人は多いのではないでしょうか。目標に向かって進んでいても、立ち止まってしまう瞬間はあるもの。そして、それを後悔しがちです。しかし、間違っても立ち止まってもいいんだ、恥じることはない、と思わせてくれる、まさに名言です。
宮本武蔵の生涯を通して、自分自身をも見つめ直すことができる今作。一度は読んでおきたい傑作です。
『バガボンド』については<『バガボンド』の生き方が沁みる!キャラと名言ネタバレ紹介!【最新37巻】>で紹介しています。気になる方はぜひご覧ください。
バスケットボールが日本中を席巻した理由のひとつに挙げられる作品でしょう。1990年から1996年まで、「週刊少年ジャンプ」にて連載され、通称「スラダン」と呼ばれる不朽の名作です。1994年に小学館漫画賞少年部門を受賞、さらに2006年に文化庁が実施した「日本のメディア芸術100選」にて、マンガ部門1位を獲得するなど根強い人気を誇っています。アニメやゲームにもなったので知っている人も多いはず。
- 著者
- 井上 雄彦
- 出版日
本作は高校バスケットボールに青春をささげた熱い男たちの物語です。知らない人の方が少ないのでは?と思えるほどに多くの人に読まれ続けるバスケ漫画の金字塔。語りつくせぬほど魅力はたくさんありますが、今作の特長といえば、やはりバスケシーンのリアルさと個性豊かな登場人物たちでしょう。
長身で目つきが悪く、赤い髪の不良で、ケンカは強いけど女の子にはめっぽう弱い、見栄っ張りだけど単純で素直なムードメーカー桜木花道が、ヒロインに「バスケットはお好きですか?」と尋ねられるところから物語はスタートします。
ひと目惚れしてしまった可愛い女の子、赤木晴子にモテたいがためバスケ部に入部する花道ですが、その後の展開を読むにつけ、本当に夢中になれるものを見つけられた人というのは幸せだな、とつくづく思わせてくれます。
桜木花道といえば、やはりリバウンドですね。「リバウンドを制するものはゲームを制す」と、キャプテンの赤木と猛特訓したリバウンド。のちに「リバウンド王桜木」を自称するほどその才能は開花し、バスケを始めて4ヵ月の素人が一躍全国区にまでのし上がります。次第にバスケに夢中になり、バスケを通じて技術も人間的成長も現れ、ただの不良ではなく「バスケットマン桜木」になっていく成長の様子は、見ていてほほえましいものです。
桜木の通う湘北高校バスケットボール部の面々も、個性的で魅力的。アプローチの仕方は違うけれど、みんなバスケが大好きなんだと伝わってきます。それぞれの良いところがたっぷり描かれているので、「嫌いな人が誰もいない」状態に。それは、他校の登場人物にも同じことが言えます。気づけば、大好きなキャラクターばかりになっているのです。
さらにバスケシーンでは、試合のワクワク感、ゲームメイクの正確さ、息をもつかせぬ点の取り合いなど、現実味のある展開を用意していることで、「噓くさくない」本当の名シーンがいくつも生み出されています。
連載終了から何年経っても色あせない、バスケに恋する男子高校生の青春物語。バスケ部のバイブルとも言われる『SLAM DUNK』。何度読み返しても、また読みたくなる、自分も一緒にアツくなれるスポーツ漫画です。
「スラムダンク」については<漫画「スラムダンク」を徹底考察!名言・物語の続き?作者の才能、豆知識…>で紹介しています。ぜひご覧ください。
いかがでしょうか。圧倒的な画力とストーリー展開で読者を楽しませてくれる井上雄彦のおすすめ5作品。やっぱり『スラダン』は名作中の名作なので、何時間でも語れそうです。井上の作品には人気作や話題作が多いので、まずは一冊、手に取ってみることから始めてみてください。