百田尚樹のおすすめ小説9選!簡潔明瞭な描写で読者を惹きつけて離さない

更新:2020.12.10 作成:2016.11.15

苦悩しながらも必死に生きる人物を描くことの多い百田尚樹。読者のツボを的確につく巧みな作家です。「直木賞よりも本屋大賞ははるかに素晴らしい」と言い切った百田尚樹のおすすめ作品をご紹介します。

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番組構成、ライターから作家になってヒット作を連発する百田尚樹

日本の放送作家であり、小説家です。1956年に大阪府大阪市東淀川区で生まれ、同志社大学法学部を五年目で中退しています。大学在学中に『ラブアタック!』に出演、その後で放送作家となり、『探偵!ナイトスクープ』のチーフライターを25年以上務めています。

百田尚樹の作家としてのデビュー作は2006年に発表した『永遠の0』で、文庫本が300万部を突破するほどの大ヒットとなりました。自宅の仕事部屋や書庫は資料などが詰め込まれて
足の踏み場もない状況のようで、家族も数年に渡って足を踏み入れたことがなかったとのことです。

趣味はマジックと囲碁で、特に囲碁は六段を自称しているそうです。

政治や歴史認識において一過言を常に持っており、政権や憲法改正や集団的自衛権、軟禁事件、東京裁判などについて数々の発言やエピソードがあります。

また、人気タレント・やしきたかじんの最晩年を闘病メモや看病をした未亡人の証言や、看護日記などに基づいて描いた『殉愛』がノンフィクションといえるのかどうかとの議論が起こり、販売差し止め訴訟にまでなりました。

なによりも命を惜しんだ特攻隊員の記憶を追う『永遠の0』

大学生の佐伯健太郎と出版社勤務の姉・慶子は、祖母・松乃の四十九日からしばらくして、祖父・賢一郎との血の繋がりがないことを知らされます。松乃が姉弟の母・清子を連れて再婚した相手が賢一郎で、ほんとうの祖父は終戦間際に特攻で戦死した海軍航空兵だとわかりました。

その日から6年が経ち、長い司法浪人で人生の目標をなくしていた健太郎は、フリーライターに転職した慶子から新聞社主催の終戦60周年記念プロジェクトのアシスタントを依頼されました。プロジェクトを進める新聞記者の高山は、神風特攻隊をテロリストだと話しますが、祖父のこともあって納得できない慶子は、特攻隊員だった彼のことを調べようと決め、健太郎とふたりでその足取りを追いはじめて……。

著者
百田 尚樹
出版日
2009-07-15

本当の祖父の名前は宮部久蔵と判明し、戦友会経由でラバウルで一緒だったという元海軍少尉と会うと、「海軍航空隊一の臆病者」「なによりも命を惜しむ男だった」と蔑みを口にしました。祖父の印象は語る人によって異なり、調べれば調べるほど分からなくなっていくのです。

国のために命を捧げるのが当たり前だった戦時下において、卑怯者とののしられても「娘に会うまでは死なない」と妻との約束を守り続けた祖父・久蔵の生涯と特攻を選んだ理由、封じられていた事実に胸を衝かれます。涙なしでは読めない名作。本当に心からおすすめする一作です!

純粋に初恋の人に愛されたかったから自分のなにもかもを変えた『モンスター』

瀬戸内海に面した古い田舎町でレストラン「オンディーヌ」を営む美しい女・未帆は、ただひたすらにある男だけを待っていました。

――奇形に近い醜さで生まれた和子という女がいました。彼女は、友人たちはもちろん、母親にすら蔑まれ、罵られながら育ったのです。

そう、この醜悪だった和子は未帆の本来の姿なのでした。

和子は高校で、子どもの頃に淡い恋心を抱いた男と再会し、その想いゆえに事件を引き起こしてしまいます。犯行は常軌を外したもので、和子は町のひとびとから「モンスター」扱いされるようになり、勘当されるように東京へと出て行きました。東京でも差別は変わらず、和子は美容整形にはまり、顔を、名前を、年齢を変えていく……。

著者
百田 尚樹
出版日
2012-04-12

年齢問わず女性にとって、容貌の美醜はとても気になるものです。ちょっと不細工なくらいなら化粧でなんとでもなるかもしれませんが、なんともならないレベルだった和子には自分を力ずくで変える方法しかありませんでした。繰り返された整形手術で中身はずたぼろになっているのに、見た目だけは美しい「未帆」として。

変貌ぶりも、自分の身体にしたことも「モンスター」ですが、初恋の男への想いもまた別の意味で「モンスター」です。根底にある、その人に愛されたいだけだったのに化け物にならざるを得なかった女の悲哀が見事に描かれています。怖くもあり切なくもある物語、是非読んでみてください。
 

すべてを失おうとも、この国は必ずや再び立ち上がる!『海賊とよばれた男』

1945年8月15日、終戦を迎えた日本では主要都市は徹底的に壊されて瓦礫の山となり、海外資産は消えて莫大な賠償金が課せられようとしていました。先の見えない暗澹たる中、田岡商会の田岡鐵造店主は残った店員を集め、「愚痴をやめよ、愚痴は泣きごとである。亡国の声である」「すべてを失おうとも、日本人がいるかぎり、この国は必ずや再び立ち上がる日が来る」と話しました。

だが、立ち直ろうにも売るべき石油はなく……。

著者
百田 尚樹
出版日
2014-07-15

歴史経済小説というジャンルになるのでしょうか。主人公の田岡鐵造は出光興産の出光佐三がモデルです。田岡の生涯と彼が営む田岡商会が大企業に成長していく様子が描かれています。

敗戦国にあって必死に足を踏ん張る田岡の姿と、敗残の風景から高度成長期を経て大国に成長していく日本が被る力強い作品です。歴史も経済も難しくて、と思う方もいるかもしれませんが、そこをただの背景ととらえて田岡の純粋で情熱的な成長物語として読めば、大河ドラマのようで楽しめます。あっと言う間に読んでしまう百田尚樹の上下巻作品です。

竹馬の友のために、何も言わずにひっそりと生きて死んでいく『影法師』

江戸時代の茅島潘(架空の藩)の下級武士の家に生まれ、子どもの頃に眼の前で父を切り殺された勘一(のちの名倉彰蔵)は、中流武士の次男坊で剣も勉学も並外れて優れた磯貝彦四郎は親友となります。

長じて下級武士から筆頭家老にまで上り詰めた勘一は、彦四郎の不遇の死を知り、その真相を追うことにし……。

著者
百田 尚樹
出版日
2012-06-15

百田尚樹初の時代小説です。確かな実力のある彦四郎が「卑怯傷」を負ったのはなぜなのか――その真相を追い駆ける物語で、構成的には『永遠の0』に近いかもしれません。簡潔明瞭にして的確な描写にぐいぐい惹きつけられ、自己犠牲をしてまでも相手を想う純粋な人間の生きざまに考えされられてしまう作品です。

ここまで真剣に誰かを思えるというのは、とても幸せなことなのだろう……と溜め息すらでてしまう百田尚樹の感動作。おすすめです。

最後の一行に心底戦慄する短編集『幸福な生活』

18編が収録された百田尚樹作品の短編集です。各編は本当に短いので、すぐ読めるのですが、最後の一行がとんでもないんです。日常も薄皮一枚剥けば恐怖に繋がることを教えてくれる1冊です。大切な人だからこそ「秘密」を見てはいけないと痛感します。

なんにしても、あの最後の一行は戦慄させられます。タイトルに騙されてはいけません。最後の一行は一行だけのために次のページを捲る形式になっているのですが、どの話も読み終わった後、ずしっときます。

著者
百田 尚樹
出版日
2013-12-12

短い話ばかりなので粗筋を説明するのは難しいのですが、2作だけ少しご紹介します。

まずは「夜の訪問者」――夜遅く「俺」が帰宅すると妻と不倫相手が談笑していました。なぜ家にいるのか、関係がばれたのかと悶々と悩む「俺」に不倫相手の行動がエスカレートし、平穏な生活を守るために切り抜ける手立てを考えるのですが……。

もう1作「残りもの」――30代後半の恭子は若い頃は美人でもてはやされたのに、チャンスを棒に振り、いまだ独身です。そんな彼女は雅彦という理想的な男性と出逢って結婚します。「残りものには福がある」と実感し、幸せな生活だったのですが……。

この2作がどんな最後の一行を迎えるのか、他の短編も最後の一行でどれほどの戦慄となるのか、ぜひとも読んでみてくださいね。

長年溜めたこのお金、何で惜しかろ夢買うために!忍び寄る男の口車『夢を売る男』

自費出版業界の裏事情を暴いた本、と言ったら語弊があるでしょうか? 

丸栄社という出版会社は、池袋に立派なビルを構え、内部には豪華なロビーや応接室もあります。

輝かしい自分史を残したい団塊世代のオジサン。スティーブ・ジョブズに憧れるフリーター。自慢の教育論を発表したい主婦。夢見る彼らに敏腕編集長「牛河原」は言います。

「現代では、夢を見るには金がいるんです!」。

牛河原の巧妙な口車に乗せられ、ご立派なこのビルを訪れた人達は、その格式高そうな雰囲気に酔い、自分の心に油断という風が吹き込んできた事に気付きません。

著者
百田 尚樹
出版日
2015-04-03

実はこの会社は、普通の出版社ではなかったのです。

少しばかり文章が書けて、そのうえ小金も溜めている、そんなお客を見つけたら、才能があろうが無かろうが、すっぽんみたいに食いついて離れない、自称「夢を売る男」牛河原を抱えているものだから、集客し集めたお金で、かくも立派なビルを建ててしまったのです。

法に引っかからないぎりぎりの手口で、売れない売らない本を量産し、もちろんアフターサービスもゼロ。甘い汁を吸って微笑むのは出版会社と敏腕編集者だけでした。

自費出版を計画している人には必見のバイブルとなるでしょう。

何でこれ程までに熱くなれるのか?そこにボクシングがあるからだ!『ボックス!』

高校のボクシング部が舞台です。勉強は出来ないけれど、ボクシングは天才肌の鏑矢(カブ)と、運動が苦手な優等生の木樽(ユウちゃん)は幼馴染み。

ある事件をきっかけに、ユウちゃんはカブの所属するボクシング部に入部することになるのですが、コツコツ頑張るタイプの彼の入部により、ボクシング部の雰囲気も変わっていきます。

著者
百田 尚樹
出版日
2013-04-12

ユウちゃんに少なからず影響を受けたカブが、ライバル校の強敵稲村に勝つという目標に向かって漸く奮起する一方、ユウちゃんも「いつかカブと戦いたい」という一心でデビュー戦に向けた練習に励みます。

カブとライバル稲村との決戦。カブとユウちゃんの対決は胸を揺さぶられるシーンばかりです。ボクシングを知らない人でも、読後はきっとボクシング通になるでしょう。

挫折を繰り返しながら成長するカブとユウちゃん。年上の教師耀子を巡るユウちゃんとカブの関係、カブに思いを寄せるマネジャーの丸野の片思い、そんなスパイスも程良く効いた熱血青春物語です。

オオスズメバチの視点から昆虫の世界を描いた物語『風の中のマリア』

オオスズメバチの主人公「マリア」は「ワーカー」です。アリでいうと「働きアリ」にあたる彼女は、幼い妹たちと「偉大なる母」のため、毎日戦い続けます。そんなある日、偶然出会ったオスバチから、メスバチの一生がどんなものかを教えられることに。その後、オオスズメバチの帝国に異変が起きますが、彼女のとった行動とは……。

著者
百田 尚樹
出版日
2011-07-15

 

ストーリーとして、激しい起伏はありません。物語は淡々と進んでいきます。

描かれているのは昆虫の世界。弱肉強食の厳しく、壮絶な世界です。妹たちの為に「狩り」にいった姉妹が命を落とすということは日常茶飯事。また、どれだけ長く生きたとしても寿命は約30日。おまけにワーカーであるメスバチはオスバチと交配することもなく、卵を産むこともない。しかし子孫繁栄の為に命懸けで毎日狩りに出かける……。力強く、しかしそれでいて切ないマリアの生活が緻密に描かれています。

また、学術書としても興味深いものとなっています。オオスズメバチの生態学的要素が多分に含まれており、本書を読むことによってかなりの知識が手に入ります。生態学的要素といっても、生態や本能を主人公マリアの感情として表現しているので、とても分かりやすいです。読中は自分自身がオオスズメバチになっているかのような感覚が楽しめるでしょう。

オオスズメバチは人間にとって、とても恐ろしい昆虫であることには変わりありません。ですが、本書を読み終わった時、ハチを見る目が変わるかもしれない……そんな1冊となっています。昆虫好きな方はもちろん、嫌いな方。そして年齢問わず、現在懸命に生きている方におすすめです。

百田尚樹自身が最高傑作と評する『カエルの楽園』

巻末には決まり文句の、この物語はフィクションであり、実在の人物・団体等とは一切関係ありません……とありますが、まるで現代の日本における国際問題を風刺したような百田尚樹のファンタジー作品です。

主人公はソクラテスという名のアマガエル。邪悪なダルマガエルの集団に祖国を狙われたため、ソクラテスは愛する祖国を離れ、平和に暮らすことのできる楽園を求めて仲間たちと旅をするところから物語が始まります。

旅の途中で度重なる困難を乗り越え、やっとの思いでたどり着いた楽園ナパージュ。そこにはツチガエルたちが平和に暮らしていました。

 

著者
百田尚樹
出版日
2016-02-26


皆が平和に過ごしている理由はどこにあるのか、ソクラテスは疑問に思います。そこで、ツチガエルらに聞いてまわると、皆口々に「三戒があるからさ」と言うのでした。この三戒とは、「カエルを信じろ、カエルと争うな、争うための力を持つな」という決まり事のこと。ナパージュが楽園として平和に保たれているのも、三戒があったおかげなのです。

しかし、その平和も隣国のウシガエルらと三戒の意義をめぐって諍いがおこり……。

日本で起こっている国際問題を投影されたかのようで、ただのファンタジーとは言えないくらい壮大なカエルらによる平和を求めた物語。百田尚樹自身が「私の最高傑作」と評している作品です。

百田尚樹は、番組構成やライターを務めていただけあって簡潔でわかりやすく、読者を惹きつけるコツをしっかりと知っている作家です。ジャンルも多岐に及びますので、ご自分の好きなジャンルから手に取ってみていただきたいと思います。