人が一番エネルギーを使う感情は、怒りではないでしょうか。湧き出す怒りは人を、あらぬ方向へと導きます。人が人に対し、許しがたい行為をしたがゆえに描かれる復讐劇。因果応報だと笑う力を根こそぎ奪い取る、壮絶な復讐漫画をランキングでご紹介します。
子ども同士のイジメがたびたび話題となりますが、幼く純粋なゆえにその行動はエスカレートし、イジメを受けていた子が自ら命を絶とうとすることも少なくありません。「あいつさえいなければ……」そんな感情を抱いたことのない被害者はいないのではないでしょうか。
本作は、イジメられていた少年が、加害者に対し自ら復讐していく物語です。
- 著者
- 藤子 不二雄A
- 出版日
- 1997-04-01
主人公は、浦見魔太郎(うらみまたろう)という眼鏡にぼんやりとした一重まぶたの、パッとしない少年です。気弱な性格の彼はかっこうの標的となり、中学校では理不尽なイジメを受けていました。
しかし、だまってやられているわけではありません。魔太郎は「こ・の・う・ら・み・は・ら・さ・で・お・く・べ・き・か」と宣言するように呟き、行動に移します。
実は彼、魔王サタンと契約し、「うらみ念法」という不可思議な力を持っていました。自身に危害を加えた人間や、親しい人間を陥れようとする者に制裁を加えていきます。
陰湿で過激な復讐の内容は、まさに魔太郎が抱えている心の闇の深さを表しているようです。イジメについても考えさせられるでしょう。
藤子不二雄Aのおすすめ作品を紹介した以下の記事もおすすめです。
藤子不二雄Aおすすめ漫画ランキングベスト6!ブラックユーモアはFよりA
藤子不二雄は日本を代表する漫画家ですが、周知のとおり、藤子不二雄は安孫子(以下A氏)と藤本(以下F氏)両氏のペンネームです。2人は、名実とともにパートナーとして漫画界にデビューしましたが、双方とも才能のある漫画であるため、後に独立。それぞれ、別の漫画家として大成しました。 F氏はSF系が多いのですが、A氏は『笑ゥせえるすまん』のようなブラックユーモアから、『プロゴルファー猿』のようなスポーツもの、『忍者ハットリくん』のような忍者とギャグマンガを合体させたもの、さらには青春ドラマまで幅広い範囲の作品を描きました。 今回は、そのA氏の作品をランキング形式で紹介します。
本作は、現代社会と魔法が融合した特殊な世界が舞台。世界を創造する力を持った「はじまりの樹」と破壊する力を持った「絶園の樹」を軸にして、魔法使いたちが戦いをくり広げていきます。
しかしバトルモノではありません。魔法使い同士の駆け引きや、ある事件の犯人捜しなど、心理戦や頭脳戦を重視した物語が展開されるのです。
- 著者
- ["城平 京", "左 有秀", "彩崎 廉"]
- 出版日
滝川吉野(たきがわよしの)は、両親を病気で亡くした高校3年生の少年。温和な性格ですが、ここぞという時には非情な手段をとることも辞さない鋼の意志を持っています。
周囲には内緒で付き合っている不破愛花(ふわあいか)という彼女がいましたが、ある時彼女が強盗に襲われて亡くなってしまうのです。
愛花の兄で吉野の幼馴染でもある真広(まひろ)は、不可解なことが多いこの事件の犯人に復讐するため、鎖部葉風(くさりべはかぜ)という魔法使いと契約して魔力を得ることになりました。
どうやらこの事件は単純な強盗殺害ではなく、さまざまな魔法使いの思惑が絡んだもののよう。さらに「はじまりの樹」の復活を阻止するために事態は激化し、吉野と真広はその渦中に巻き込まれていきます。
物語の焦点は「愛花は誰に殺されたのか」ということですが、序盤は情報少なく、どこを向いても謎ばかりの状態。読者も登場人物とともに謎を解き明かしていくことになります。頭脳戦と心理戦をお楽しみください。
『絶園のテンペスト』の魅力を紹介した以下の記事もおすすめです。
漫画『絶園のテンペスト』が無料!あなたは分かるかこの世界観⁉
ファンタジーとミステリーが融合された漫画『絶園のテンペスト』。魔法が存在する世界でありながら、登場人物たちの思惑が複雑に絡み合うことで次々と謎が生まれていき、読者は考察しながら読み進めるミステリーの要素も含んでいます。そんな本作の魅力をネタバレを含みつつご紹介しましょう。苦手な方はご注意ください。スマホの無料アプリでも読むことができますので、気になった方は、そちらからもどうぞ。
現代日本には法律があり、だからこそ秩序が守られているのですが、その一方で法があるからこそどうしようもないジレンマを抱える場合もあるでしょう。
本作は、罪を犯しながらも十分な法の裁きを受けなかった犯罪者に対し、被害者や遺族の依頼で復讐の代行をする2人の男の物語です。
- 著者
- 渡邊 ダイスケ
- 出版日
- 2016-08-08
主人公は「カモメ古書店」の店主、鴨ノ目武(かものめたけし)。坊主頭にサングラス、額にキズがあるちょっと近寄りがたい人相をしています。武闘派の島田虎信(しまだとらのぶ)とともに、誰にも言えない復讐代行という裏稼業をしていました。
基本的には1話完結ですが、物語は随所で繋がっています。登場する犯罪者や状況はさまざまで、ストーカーやママ友問題など現実味のある問題が数多く描かれています。
復讐代行をしている鴨ノ目と虎信ですが、彼らにも代行をするだけの理由があるというのが本作の大きなポイント。彼らのおこないは決して推奨できるものではないものの、彼らによって救われている人もいるのです。
罪であり救いでもある復讐代行者たちの有り方に考えさせられる作品です。
『外道の歌』を紹介したこちらの記事もおすすめです。気になる方はぜひご覧ください。
『外道の歌』魅力と見所を全巻ネタバレ!復讐に生きる彼らの正体は?
2016年から漫画雑誌「ヤングキング」で連載されている『外道の歌』。全5巻で完結した『善悪の屑』の続編にあたります。登場する事件の多くは、なんと実際の事件をモチーフにしていることでも知られており、内容はかなり過激です。 今回は、そんな『外道の歌』既刊分7巻をご紹介しましょう。
負の感情はとかくエネルギーを使用します。ただ通常であれば怒りはあまり持続するものではなく、カッとなった後は疲れてしまうもの。維持するのにもそれなりの体力と精神力が必要なのです。
では長期間怒りや憎しみを抱く人には、いったいどんな事情があるのでしょうか。恋愛や友情というカテゴリに関わらず、それまで信頼していた相手に裏切られた経験が、憎しみをはらんだ復讐に繋がるケースが多いようです。
本作の主人公ガッツは、「黒い剣士」という異名を持つ青年です。身の丈を超える巨大で分厚い剣を持ち、大砲というギミックのある義手を操ります。黒いマントに黒い甲冑という黒ずくめで、さまざまな敵と狂ったように戦いながらも、ただひとりの男に復讐をするためだけに旅を続けているのです。
- 著者
- 三浦 建太郎
- 出版日
ガッツはかつて「鷹の団」という、常勝無敗の傭兵団に所属していました。それまで育ってきた環境に恵まれず、人を信用できずにいた彼の心を変えてくれたのが、団長グリフィスと、女性剣士のキャスカだったのです。
深い愛情と信頼で繋がっていた彼らでしたが、ある時ガッツが武者修行に出たことをきっかけに事態が急変、グリフィスが「鷹の団」の仲間を生贄に捧げ、魔の眷属となってしまったのです。
自身も生贄となり右腕と右目を失ったガッツは、精神崩壊してしまったキャスカを抱え、多くの仲間を傷つけたグリフィスへの復讐を誓います。
心理描写が緻密で、復讐のきっかけとなった事件が起こる以前の物語もきっちりと描かれており、読者はガッツの痛みに共感しながらもグリフィスを憎み切れない複雑な思いを抱えることになるでしょう。
剣と魔法のファンタジーという言葉だけでは説明することはできない、壮大なスケールのダークファンタジーなのです。
また戦いの描写はかなり残酷で、血潮が飛ぶのは当たり前。それだけガッツの受けた衝撃を体感することができますが、苦手な方は注意してください。
ベルセルクファンの方には、キャラクターの強さをランク付けした以下のの記事もおすすめです。
漫画『ベルセルク』の最強キャラランキングベスト25!【ネタバレ注意】
思わず目を背けてしまうほどのバイオレンスが魅力な骨太アクション漫画、『ベルセルク』史上最強の座は誰の手に!? この記事では、血で血を洗うような戦いを繰り広げるキャラクターたちの強さを徹底考察!作中強さランキングを、各キャラクターの魅力とともに見ていきましょう。大剣を携え旅を続ける主人公・ガッツの順位は果たして……!?ネタバレ注意です! 本作はスマホのアプリで無料で読むことができますので、ぜひチェックしてみてください!
江山は理不尽ないじめにあっている中学生。クラス全体から標的にされています。実はこのいじめの主犯者は優等生でクラスのリーダー的存在の少女・桐島。表向きの顔とは裏腹に彼女は江山をストレス解消の道具として弄んでいるのです。
そんな江山にある日届いたのは「監禁ゲームへの招待状」。またいじめっ子たちのいたずらだろうと相手にしなかった江山でしたが、桐島への恐怖心から逃れられずそのゲームに参加することになります……。
- 著者
- ["水瀬 チホ", "貫徹"]
- 出版日
- 2016-02-27
本作は復讐によって変わっていってしまう江山の様子にスリルを感じる作品です。
このゲームのルールはいたって簡単。1ヶ月の監禁期間の中で監禁された相手が4回のチャンスをもらい、その中で監禁している相手が誰なのかを当てられれば監禁された者の勝ち。当てられなければ監禁した方の勝ちというゲームです。
当初は正体を当てられるのではないかという恐れと、いじめられていた時のフラッシュバックでビクビクしていた江山ですが、徐々にいじめるということに楽しさを覚えるようになっていきます。
そしてその性格の変化とともに桐島への暴力もどんどん酷くなっていくのです。人によってねじ曲げられた性格がさらに非日常の環境の中で歪んでいく様は恐ろしく、それなのに続きが気になってしまう魅力があります。
果たしてこのゲームの勝者はどちらになるのでしょうか?
人間は罪を犯せば裁かれますが、18歳未満の少年少女は法律によって守られ、罪に対する罰ではなく、その未来の可能性に賭けられることが多くなります。社会問題でもある「いじめ」の中では、犯罪と言えてしまいそう度の過ぎた行動も「いじめ」という言葉で一括りにされ、罪を問えなくなってしまいます。被害者は行き場のない怒りをこらえ続けるしかありません。
公に裁くことができないならば、私刑にすればいいとでも言うように、近頃はデスゲーム系の作品が多く発表されるようになりました。真犯人は隠れて対象者を殺し、その目的や殺害の意味は最後に明かされる、という流れです。
本作も、そんなデスゲーム作品のひとつ。斬新な罰の与え方をしている内容がポイントです。
- 著者
- 近藤しぐれ
- 出版日
- 2016-02-29
私立高校の教師・下部は、アメリカの心理学研究所で働いていた実績を持ち、豊富な心理学の知識を持っていました。しかし、現実では受け持っている2年C組は学級崩壊寸前。上司の教師からも責を問われ、生徒たちからは下僕と称される、屈辱的な日々を送っていました。
ある日、下部は現金を報酬に、生徒たちを授業におびき出します。集められた生徒たちは、大音量の音楽と不気味な映像を見せられました。その後、何気なく電話をかけようとした少女が死亡。下部は生徒たちに、彼自身が指定した100の行動をとってしまった時、自殺するように催眠をかけたと言うのです。自らが死ぬか、生徒全員が死ぬのを待つか。日常生活すら気の抜けないデスゲームが始まります。
食べる、寝る、歩くことはもちろんのこと、立つ、座るなど、当たり前の行動ですら死の引き金になるという恐怖と緊張感が本作の最大の魅力。右往左往する生徒とともに、催眠を解くための謎解き要素もあります。
しかし、生徒にバカにされ続け、全員を死に追いやろうと考えた下部の、恨みの深さは相当なもの。因果応報と考えるべきか、かわいそうだと慈悲の心を向けるべきか、デスゲームの行方とともに読者の心も揺れ続けます。
『シグナル100』については以下の記事で紹介しています。気になる方はぜひご覧ください。
壮絶なデスゲーム漫画『シグナル100』が無料!あらすじから見所までネタバレ紹介!
橋本環奈主演で実写映画化決定!本作の主人公は、特定の行動を合図に自殺を引き起こしてしまう「自殺催眠」を、担任の先生に仕掛けられた高校生たち。合図となる行動は100個。何が自殺の引き金になるか分からない極限状態の中で、壮絶なデスゲームが繰り広げられる衝撃作『シグナル100』から目が離せません! この記事では、本作の見どころを全巻分ご紹介していきます。
何か事件が起こったとき、すぐに犯人が捕まるわけではありません。犯人が判明したものの、逃亡しているというケースももちろんあります。「指名手配」という言葉や、通報を促すポスターを見たことがある人も多いでしょう。
相応の労力が支払われて犯人逮捕に至るわけですが、顔の特徴を覚え続けるというのは、並みの記憶力ではありません。本作は、そんな記憶力に特化した捜査官が主人公の物語。犯人捜査に加え、重要指名手配犯たちと死闘を繰り広げる、バトルアクションとしても楽しめます。
- 著者
- 田近 康平
- 出版日
- 2016-09-09
見影守人は、写真を手に街頭に立って指名手配犯を探す「見当たり捜査官」の1人。一度目にしたものは瞬時に脳に焼き付けられ、その記憶を保持し続けることができるという、「スーパーレコグナイザー」という能力の持ち主です。一見有能には見えない見影ですが、その能力を駆使し、大勢の中からたった1人を見つけ出します。
飄々とした雰囲気のある見影ですが、その脳裏には、今でも消えない顔と光景が残っていました。殺された家族、そして殺した犯人。見影は、かつて自身の大切な人たちを殺害した犯人を捜すため、捜査官として現場に立ち続けているのです。
本作に登場する犯人たちは、極悪非道な連中ばかり。犯人たちの残忍な性質があまりにも現実離れしているせいか、警察者のアクションとして、現実と切り離して読むことができます。見影は、犯人を探し出すという復讐心はあるものの、それだけで動いているわけではありません。風変わりながら、正義を貫く見影を応援したくなります。
風変わりな捜査官と、とにかく濃いキャラクターの犯人たちの駆け引きをお楽しみください。
過去、戦が起きた場合に多大な被害をこうむるのは女性と子どもでした。当たり前のように略奪をされ、自身の純潔を奪われてしまう。子どもは人身売買で売られることは当たり前、祖国に帰ることもままなりません。そういうものだ、と諦めきれるものではない、戦は人の心に深い影を落とします。
本作は、中世から近代に映ろうとしているヨーロッパが舞台の物語。ルターの宗教革命に先駆けて発生した宗教戦争、フス戦争がモチーフとなっています。フス戦争とは、神学教授ヤン・フスの唱えた教会改革派の信者、主にボヘミアやポーランドといった国々と、それを異端視したカトリック、神聖ローマ帝国間で起こった戦いの事です。
- 著者
- 大西 巷一
- 出版日
- 2014-01-10
1402年、ボヘミア王国でのこと。派遣されたカトリック派の聖ヨハネ騎士団が国中を蹂躙し、混乱を極めていました。異端狩りの名目で住んでいた村が騎士団に襲撃され、家族は皆殺しにされた上に、辱めを受けた少女・シャールカ。行き倒れていたところを、謎の武装集団に拾われます。彼らは、奇策と最新の兵器で戦う傭兵集団でした。
隻眼のヤン・ジシュカ率いる傭兵集団「トロツノフの隻眼巨人隊」に拾われたシャールカでしたが、生活を支えるために拾われたわけではありません。ヤン・ジシュカはシャールカに最新の火器「ピーシュチャラ(銃のようなもの)」を与え、兵士として戦えと告げます。ピーシュチャラは、蹂躙されるしかなかったシャールカが手に入れた対抗手段。彼女はそれを手に、戦場に立つことになります。
本作は、全てを奪われた少女の目から見る、宗教戦争を描いています。信じる神は1人であるにもかかわらず、戦いを続ける人々の業の深さを嘆かずにはいられません。両親の仇を取るために武器を手にしたシャールカが、心身ともに兵士になっていく姿に、安堵と悲しみという、両極端の感情が沸き起こり、読者を複雑な気持ちを抱きます。
武器を手に取った少女に幸せは訪れるのか、手に汗握る本格的な歴史漫画です。
本作は、醜いがために不遇だった少女が、ひょんなことから全身を整形、美貌を手に入れるという筋書きの物語です。やはり、女性にとって美しさは最大の関心事。自身の努力しだいでなんとかなることもありますが、もって生まれたものをそう簡単に変えることはできません。
主人公・弥生ひろみは、その醜い容姿から周囲だけでなく、家族にも疎まれていた存在でした。入水自殺を図ろうとしたところを、巌俊明に助けられます。俊明は、医学界から追放された天才医師。すすめられるがまま、全身整形手術を受けたひろみは、美しい少女へと変身します。
- 著者
- 高階 良子
- 出版日
- 2015-07-03
写真家の目に留まり、モデルデビューを果たしたひろみは、幸せの絶頂にいました。醜いというだけで自身をいじめていた人々が、手のひらを返したように称賛する。そんな状況に優越感を覚える彼女でしたが、その美しさは嫉妬心を呼び起こし、やがて悲劇を生み出すのです。
ひろみは全身整形をすることで他者を見返すことができました。そこで彼女の復讐は完結しています。しかし、物語にはもう1つの復讐が用意されており、それを果たすための過程の中で、苦悩するひろみの姿に、作られた美しさを手に入れることの意味を、深く考えてしまうでしょう。
復讐劇であり、悲恋でもある物語は、様々な人々の嫉妬の心で埋め尽くされています。しかし、ひろみの心は、どこか純粋なままであるというところが印象的。ただ美しさを願い、手に入れた美貌を喜んでいたひろみのまっすぐさが、胸に突き刺さります。
美人には美人なりの苦労がある、とはわかっているものの、美人のほうが得であるという事実は覆しようがありません。誰しもそれなりに、自身の容姿にコンプレックスを抱いているもの。他者の心無い言葉に傷つき、生きる希望を失うこともあるでしょう。美人になりたい、と願ったことがある女性は、きっと少なくありません。
本作は、人間の美醜がもっとも問われる、芸能界を舞台にした物語。人間の顔を入れ替えることができる、不思議な口紅のせいで、人生を狂わされる人々の愛憎劇を描きます。皆が何かしら復讐心を抱く中、主人公の累(かさね)の復讐対象は「世界」でしょうか。美しい顔を手に入れ、醜いがために冷徹だった世界への復讐を成しているのです。
- 著者
- 松浦 だるま
- 出版日
- 2013-10-23
累は、確かな演技力と類まれなる美貌を持った女優、淵透世(ふちすけよ)の娘。しかし、その顔は口が大きく裂けた、母とは似ても似つかぬ顔をしていました。
そのせいで散々いじめられ、不遇な人生を歩んできた累でしたが、母の遺品である口紅をつけたことで状況が一変します。口紅をつけて口づけをすると、願ったものを奪うことができることに気が付いた累は、美しい顔を奪うことで舞台に立ち、母譲りの演技力を高く評価されることとなりました。
一方、美しい顔を持ちながら、実の父親からの束縛から逃れられずにいた野菊は、世間的に知られている女優・淵透世が、実の母の顔を奪い、他者に成り代わっていたという事実を知っていました。自分の母を監禁し、人生を狂わせた累の母と累に復讐を誓います。やがて2人が出会った時、運命が動き始めるのです。
醜いがゆえに不遇の人生を歩まなければならなかった累と、美しいがゆえに思うがままに生きられなかった野菊。対照的な2人の意見は平行線で、けして交わることはありません。どちらに対しても同情的になってしまいますが、周囲の人々も巻き込み、抜け出せないドロ沼展開となっていく様をみると、読者は頭を抱えるしないでしょう。
実際の悲劇と物語がリンクしているところは、舞台好きな人には嬉しいところです。2人の運命の行くつく先を、ぜひ見届けてください。
『累』については以下の記事で紹介しています。気になる方はぜひご覧ください。
漫画『累』の魅力を最終14巻までネタバレ考察!女って本当に怖い……
2018年に実写映画化が決定したサイコホラー漫画。女、そして人間というものの恐ろしさを感じさせられる作品です。今回は本作の恐ろしさを詳しくフォーカスしていきます。13巻までのネタバレを含むのでご注意ください。
女性が男性に恨みを抱く時というのは、手ひどくフラれたり、不倫だったりと、心を踏みにじられたことが原因であることが多いです。復讐とは、いったいどういう状態になれば成されたと判断できるのでしょうか。
本作は芸能界を舞台とした復讐の物語です。他の作品と異なるのは、復讐をきっかけにし、道が開けるというところ。あまり明るいきっかけではありませんが、物語は主人公・最上キョーコの成長と恋が中心となります。しかし、「恋」といっても、恋をしたわけではなく、過去の経験から恋に対する夢や希望を失い、「二度と恋をしない」と硬く決意しているところからスタートするのです。
- 著者
- 仲村 佳樹
- 出版日
- 2002-07-19
キョーコは、高校にもいかずに、バイトに明け暮れる日々を送っていました。同居人の不破尚は幼馴染。プロ歌手を目指して家出同然に飛び出してきており、その生活を支えるキョーコの夢は、尚がプロ歌手として成功する事でした。しかし、尚が人気歌手となり、距離を置かれるようになったある日、自分は家政婦の代わりだったという真実を告げられ、捨てられてしまいます。
復讐を誓い、芸能事務所へ執念と根性で入り込んだキョーコは、自身に足りない感情を補うべく「ラブミー部」というグループで活動することに。そこで出会った初めての友達や、人気実力ともにトップの先輩俳優との出会いを経て、演技という武器を獲得。女優としての才能を開花させていきます。
物語の序盤では復讐の念だけを動力に生きていたキョーコですが、徐々にその考えを変えていきます。敵に塩を送るような姿など、人間的に成長した姿も見せました。しかし、意外な本音を明かせて見せるなど、随所で笑わせてくれます。純粋で真っすぐ、な少女であるため、嫌味なところはありません。
超鈍感なため、恋もなかなか進展しませんが、ネガティブ要素が少なく、明るく頑張るキョーコを応援したくなる作品です。
『スキップ・ビート』については以下の記事で紹介しています。気になる方はぜひご覧ください。
漫画『スキップ・ビート』が無料で読める!見所を最新43巻までネタバレ紹介
振られた幼馴染を見返すために女優になるべく芸能界に入った京子。彼女が人としても女優としても成長していくシンデレラストーリーが『スキップ・ビート』。 こう聞くと王道なストーリーかと思いきや、この物語の主人公、一癖あります。呪いに精通していたり、それでいておとぎ話に憧れるような乙女脳だったり、リアクションがすごすぎて顔芸にしか見えなかったり……。とにかく王道の少女漫画だけではない魅力を作り出しているキャラなのです。 この記事ではアニメ化もされた人気作をストーリー上の見どころからご紹介していきます。スマホの漫画アプリで無料で読むことができるので、ぜひ試してみてください。
日本は島国であり、独特な文化を築いてきました。日本特有のものは多く、特に侍や芸者、忍者といった職業は一種の憧れを持たれています。現代でも観光の一環として忍者たちがもてなす、といった余興が組まれ好評な様子。やはり、外国人の忍者へのあこがれは、相当強いようです。
本作は、Twitter発祥の小説『ニンジャスレイヤー』のコミカライズ作品です。『ニンジャスレイヤー』は、アメリカ人2人のコンビが書いた、忍者を題材として扱った物語。しかし忍者といっても、日本で良く知られているような姿ではなく、彼らが独自に解釈した忍者。まさしく「ネオニンジャ」という言葉に相応しい姿となっています。
- 著者
- ["余湖 裕輝", "田畑 由秋"]
- 出版日
- 2013-12-10
世界に電子ネットワークが張り巡らされ、サイバネティックス技術が普遍化した近未来。鎖国状態にある日本を、「メガコーポ」という企業が影で支配し操っていました。治安悪化の一途を辿る日本の首都・ネオサイタマで、神のような存在であるニンジャが暗躍するなど、まさしくマッポー(末法)の世を迎えていました。
平凡なサラリーマンだったフジキド・ケンジは、ある日突然ニンジャに妻子を殺されてしまいます。自身も瀕死の状態となっていましたが、その身体に、過酷な自己鍛錬と精神修行の末に宿るという「ニンジャソウル」が宿ったことで、一命をとりとめます。ニンジャとなった彼は、妻子を殺した相手に報復をするため、ニンジャを殺す者、すなわちニンジャスレイヤーとして戦いに身を投じていくのでした。
へんてこに解釈され「忍者」と「日本文化」の要素につい目が行ってしまいますが、基本は復讐劇。超人的な力を手に入れたフジキドと、様々な忍者たちの激闘が描かれます。擬音が多く、アメコミ調なところが、原作の不思議な世界観を表現するのに一役買っています。日本人からすると、「なぜ!?」と思う部分はありつつも、海外から見た日本の姿も堪能できる、スケールの大きな復讐劇をお楽しみください。
人は感情を隠す理性を持っています。笑い、喜び、泣き、怒り。特に怒りや憎しみと呼ばれる感情は、あまり表に出さないもの。そのために強い憎しみの炎は、心の中でひっそりと燃え続けます。普段から抑圧されているものは、ふとしたきっかけで表に出てきやすいもの、つい頭にきて、という軽い動機が殺人事件を起こしてしまうのも、そういった理由だからなのでしょう。
子ども向けの作品を多く残した手塚治虫ですが、それ以上に重いテーマを持った、青年向けの漫画を多く残しました。そのひとつが本作。とあることがきっかけで両腕を失うことになった男の物語です。本作の復讐は一風変わった形がとられており、人が心から誰かを憎む想いの強さを、感じずにはいられません。
- 著者
- 手塚 治虫
- 出版日
- 1994-03-01
主人公・壇タクヤには、アメリカに留学中の妹がいました。そんな妹・亜里沙がアメリカ人のエディと恋人となり、結婚することに。祝福したタクヤでしたが、この結婚が思いがけない悲劇を呼びます。ある日、結婚式のために訪れていたニューヨークで偶然殺人を目撃したタクヤは、警察へ捜査の協力をします。しかし、この協力が原因となり、両腕を肩から切断されてしまったのです。
実は、亜里沙の結婚相手、エディはマフィア「アルバーニ一族」の御曹司。殺人事件はアルバーニが関わっていたこともあり、身内を売った制裁として、腕を切断されたのです。どうにか一命をとりとめたタクヤでしたが、その身の内に宿った復讐の炎を消すことはできません。
ひょんなことから、超能力研究者のマッキントッシュ博士と知り合ったタクヤは、サイコキネシスで動く義手を入手し、改めてエディへの復讐を誓います。
サイコキネシスで動く義手と、復讐に燃える男を描いた、サイコサスペンスである本作。この義手が、思いがけない行動を起こしたことで、物語はより凄惨さを増していきます。読者は真実を知ったとき、人間の業の深さを知るでしょう。人の心はままならいからこそ、思い悩み、苦しむのだと改めて感じる作品です。
人が誰かに嫉妬する瞬間というのは、どういうときでしょうか。自分よりも、容姿や能力、生活が優れている時など、相手が自分より幸福であると感じた時に抱く場合がほとんどです。しかし、他者と自身は交わらないもの、人のものは基本的に自分のものにはなりません。
けれど、どうしたって相手が羨ましく、妬ましくなってしまう気持ちを、抑えることができないこともあるのです。
本作はとある名家に関わった少女が、とある手違いから不幸な道を歩み、やがて凄惨な復讐劇へと発展する物語。作者の楳図かずおの美麗な絵は、陰惨な復讐劇を克明に描写し、読者にじわりとした恐怖心を抱かせます。しかし、本作はホラー描写だけが見どころではありません。2人の少女の、自身ではどうにもできなかった運命を想うと、やるせなさに打ちのめされます。
- 著者
- 楳図 かずお
- 出版日
- 2011-03-11
天涯孤独な少女・葉子は、引き取られた先の家で女中として働かされ、とても苦労して育ちました。ある日、12年前産院で子どもの取り違いがあり、葉子は立派な家柄である南条家の娘であることを知らされます。本当の両親である南条家に引き取られた彼女でしたが、そこには醜い赤ん坊の姿をした姉、マミと、葉子を認識しない母が居ました。
タマミは、赤ん坊の姿から成長できなくなってしまった少女。葉子と同じ日に生まれ、取り違いの末に南条家にきた、見ず知らずの子どもです。美しく成長した葉子に対し、醜いままのタマミは、自身の居場所を取られるという恐怖心と嫉妬心から、葉子に執拗に攻撃を仕掛けるのでした。
タマミの葉子に対する攻撃は、どちらかと言えば外敵に対するようなもの。タマミが復讐をした、と言えるのは父親に対してかもしれません。タマミと葉子、2人の少女は幸せになれるのか、人間の心の闇に深いため息が漏れます。
昔から、子が親よりも先に死ぬことは最大の親不孝とされており、亡くなった子供は賽の河原で石積みをして罪を償っています。賽の河原の石積みは、石を積み、鬼に破壊される、このルーティーンの繰り返し。達成感が無く、意味のない事を続けていくのは、最大の罰である、という証明にもなっています。
復讐劇というと相手を殺してしまうという展開がほとんどですが、本作は少々趣向が違います。そのタイトルの通り、石を積み上げさせては崩す、まるで賽の河原の石積みのようなことを延々させることで罰を与えました。とても地味ではありますが、精神的にはかなり苦痛を感じるため、復讐者の心の闇を感じることができます。
- 著者
- 平田弘史
- 出版日
- 2012-08-25
鍋山豊前守利景に急襲されたことにより、一族郎党を皆殺しにされ、お家が滅亡してしまった長屋左衛門尉宗綱の子・宗之。彼は10年もの長い歳月をかけて復讐を果たすため力を蓄え、ついにそれを果たします。その方法とは、利景を傷つけた状態で、石垣を築かせ、それを崩し、また築かせるという、終わりもなく途方のないものでした。
戦乱の時代の復讐劇ではあるものの、剣を使用し死力を尽くしての戦いではなく、石垣を積んで崩す、という意外性に驚かされます。しかし、精神的な苦痛を与えてくるということは、それだけ憎しみの心が強いということ。物珍しさよりも、相手に対する底なしの憎しみに、読者は身震いをしてしまいます。
発行当時、あまりに凄惨な暴力描写なため発行を禁止されたという、いわくのある問題作。作画担当の平田弘史の筆致は、劇画らしい細かさ、かつ迫力満点。登場人物の心情がひしひしと伝わってきます。戦のシーンの迫力は圧巻の一言、終わりのない復讐にはどんな結末が用意されているのか、その最後を見届けましょう。
いじめほど、他者から受ける理不尽な仕打ちはありません。クラスや会社という小さな単位で起こる理不尽は、人の心を苛み、命を奪います。3年3組に所属している藤沢彩菜は、クラスメイトから酷いいじめを受けている中学生。精神的、肉体的、性的と、あらゆる暴力を振るわれた挙句、背を押されて車道に呼び出してしまい、危うく命を落としかけます。
どうして自分なのか、と自問自答を繰り返してきた彩菜は、殺されかけてようやく気が付きました。理由なんてものはなく、たまたま悪意の網にかかったのが自分だったというだけなのだと。
- 著者
- 要 龍
- 出版日
- 2013-11-12
殺されるくらいなら復讐してやる、と決意を固めた彩奈の復讐劇が描かれる『復讐教室』は、山崎烏の説『復讐の唄』が原作で、要龍が作画を担当しました。大筋は原作小説と変わりませんが、展開や復讐の方法に違いがあり、原作ファンが読んでも違った展開を楽しむことができます。
彩菜の生への渇望と怒りから生まれた復讐を描いていきますが、ただ彩菜が誰かを傷つける姿を見せるわけではありません。彩菜は、1人、また1人と追い込んでいくうちに、このいじめが組織的に行われていたことであり、黒幕がいるということに気が付きます。容赦ないじめと凄惨な復讐劇の裏では、誰が黒幕なのかを探る心理劇も繰り広げられるのです。
最初は社会的な復讐という形だった彩菜の復讐は、人が命を落とすまでに発展していきます。彩菜の復讐の炎は人に飛び火し、気弱だった野村藍という、新たな復讐の炎を宿した人間を生み出しました。
「こんなことじゃないよ。これは正しいこと」
(『復讐教室』より引用)
藍が復讐を肯定させる発言をするようになったのは、彩菜同様いじめに対する鬱屈した気持ちを抱えていたからです。いじめは人に伝染し、また狂気も伝染する。怨みの力に支配された教室は、その心が晴れるまで、傷つき合うことを止めないのです。
彩菜の復讐は、クラスの中で生きるための戦いです。その復讐の善悪を問うという行為は、意味を成しません。それはいじめているクラスメイト、ひいては黒幕の思惑の善悪を問うことになり、彩菜から生きる権利を奪うことにもなります。いばらの道を進んだ彩菜に、どんな運命が待ち受けているのでしょうか。
とあるIT企業に突如現れた派遣社員・鈴木密。人当たりが良く、仕事も出来る美人とあって、社内で男女問わず評判の良い人物です。
しかし彼女の真の目的はこの会社にかつて勤めていた亡き夫のための復讐。彼はこの会社で自殺に至るまで追い込まれ、密はその原因となった人物たちを社会的、肉体的に殺そうとこの会社にやってきたのです。
そして彼女はひとり、またひとりと確実に復讐を果たしていき……。
- 著者
- 黒澤 R
- 出版日
本作は復讐を淡々と、そしてエロティックに行なっていく密の妖艶な姿に引き込まれる作品です。
密は裏から巧みに手を回し、次々とターゲットに忍び寄っていきます。ある人物には愛人として忍び寄り、少しずつ毒を盛って苦しませ入院させ、ある人物にはネットも電話回線も繋がらない密室に数週間閉じ込め、自分のしたことを反省させるという罰を与えました。
しかし密の不思議な特徴が、強い復讐心を持って計画を遂行しているはずなのにその熱を表には出さないところ。彼女は淡々と目的を果たしていきます。そしてその様子がたまらなくセクシーなのです。
果たして彼女の復讐の行き着く先はいったいどこなのでしょうか?彼女の独特の雰囲気に惹かれながら一気読みしてしまうこと間違いなしです!
20年前、結界の向こう側から現れる異形の魔物「闇の異邦(ヴィシュテヒ)」を封印する際、14名の勇者が選ばれました。3人は旅の途中で犠牲となり「尊き未帰還者」と呼ばれるようになります。
裏切った4人と闇の異邦を封印した7人が「七英雄」として称えられ、世界は束の間の平和を手に入れました。しかし、英雄譚は真っ赤なウソ。七英雄が封印の使命を果たした4人を口封じに殺し、己の手柄としていたのです。
- 著者
- 塩野 干支郎次
- 出版日
塩野干支郎次『Ubel Blatt~ユーベルブラット~ 』は、妖魔や魔物、魔法が存在するファンタジー世界「サーランディエン」を舞台に、裏切られた真の英雄が復讐を果たすまでの道のりを描く、ダークファンタジー作品です。
主人公は左目を縦断するような大きな傷を持った亜人の少年・ケインツェル。彼の本名はアシェリートと言い、裏切り者の槍として伝えられている剣士でした。七英雄に切り刻まれて死にかけていたところに、高位精霊の力を取り入れ、人ならざる存在として蘇ったのです。その目的はただ一つ、自分と仲間を裏切った七英雄に復讐すること。
単純にケインツェルが、七英雄を殺害すること自体は難しいことではありません。しかし、人の周りには国があり、世界があります。ケインツェルを裏切り者だと世界は罵りますが、そんな外野の声などものともせず、剣技と高位精霊との融合で得たチート級の能力で敵を打ち破っていきます。
復讐の物語という側面はありますが、その強さを読んでいると爽快感すら感じます。人は勧善懲悪を好むものですが、七英雄が悪に徹することで、読者は自身の正義を貫くケインツェルの活躍を、素直に楽しむことができるのです。
「あの7人を殺せるなら、帝国の秩序など崩壊しても構わない」(『Ubel Blatt~ユーベルブラット~ 』より引用)
そう口にするケインツェルは、かつて人を救うために戦った勇者。人の身勝手な振る舞いと心が、善良な人の心をも変えてしまうのです。復讐劇を中心に、高い画力で描くアクションシーンも見ごたえのある本作は、利権と欲にまみれた世の中を鮮やかに切り裂くような力強さが秘められています。
学校は小さな社会と言われています。そこで対人能力を養い、いずれ社会に飛び立っていく。しかしその小さな社会では、人が人を傷つける行為が容易く行われ、それは学校という箱庭から脱出するか、行き着くところまで止むことはありません。同じように変化の少ない田舎町は、余所者を嫌います。一塊になり、異物を排除することで、己の平穏を取り戻そうとするのです。
- 著者
- 押切 蓮介
- 出版日
父親の仕事の都合で、東京から田舎町に引っ越してきた野咲春花は、心優しい美少女です。大津馬村中学校に転校するも、同級生からのいじめの対象にされてしまいます。あと2カ月我慢すれば卒業できると我慢してながら過ごす春花。
しかし春花の両親がいじめのことを知っていると聞きつけたいじめグループは、野咲家を襲撃して家に火を放ちました。この放火により両親は死亡、妹も大火傷を負います。証拠隠滅のために、主犯である流美たちに自殺を強要された春花は、いじめていた者たちへの復讐を誓います。
押切蓮介『ミスミソウ』は、暗くて雪深く閉鎖的な田舎町で起こる、陰湿ないじめと復讐劇が描かれます。最初は物を隠したり、ちょっとした悪意だったはずのいじめ。しかし同級生の共感と仲間意識によって増長し、戻れないところまで行きつくようになります。
その様子は人間はこれほどまでに愚かなのだろうかという嘆きを感じます。己の欲望と自我を守るために人を殺し、けれど春花に復讐されることで人の痛みを知るという構図になっています。
主犯格・佐山流美が、復讐する春花を返り討ちにしようと画策しているとき、自身の母親から「何があってもお母さんは味方だから」(『ミスミソウ』より引用)と声を掛けられます。佐山が初めて両親の愛情を感じ、だからこそ戻れないところまで来てしまったことを実感するシーンです。
人間の愚かさを執拗なまでに書いた本作品。あまりにも辛すぎるラストはそんな人間の性質について考えさせられます。
『ミスミソウ』については以下の記事で紹介しています。気になる方はぜひご覧ください。
『ミスミソウ』の見所を最終回までネタバレ紹介!傑作ホラー漫画の鬱展開…
心優しかった少女は、家族を全員殺され、殺人鬼と化す……! 2018年に映画化された押切蓮介の名作サイコホラー漫画『ミスミソウ』。いじめによって変わり果てた少女の復讐劇です。読み進めるほどに辛いのに、なぜか止められない、名作鬱漫画としても名高い本作。 今回はその魅力を壮絶な欝シーン、名シーンから最終回までご紹介!ネタバレと過激なシーンの描写がありますのでご注意ください。
生まれつき「奇跡」と呼ばれる能力を使える者を「祝福者」と呼び、「氷の魔女」という祝福者によって一面が雪で覆われた世界。主人公のアグニは妹のルナとふたり暮らし。彼は奇跡の力によって体が再生することから、食料として自分の体を捧げて村を飢えから救っていました。
しかしある日、ドマという炎の祝福者によって村は全焼。唯一の肉親だったルナも死んでしまい、彼女の最期の言葉である「生きて」という言葉を胸に刻んだアグニはドマへの復讐心だけを生きる目的として前へと進んでいきます……。
- 著者
- 藤本 タツキ
- 出版日
- 2016-07-04
本作の魅力はアグニの奇跡の特徴によって演出される、生々しい迫力です。ストーリーの始まりはまずアグニの腕が切り落とされるところから始まります。再生能力の祝福者といっても痛みが消える訳ではないので腕を切り落とすと激しい痛みが彼を襲います。
しかし村の人々と共に雪に覆われた世界を生きのびるために、まさに自らの身を切ってアグニは人々を助けていたのです。
そんな優しい彼を変えてしまったのがドマの来襲でした。物体を焼き尽くすまで消えないドマの炎と、何度も再生するアグニ。身を焼き尽くす痛みが永遠に彼の体を襲います。しかし痛みに苦しみながら1年、2年とアグニは確実に炎と自分の奇跡の使い方を学んでいきました。
そして24時間365日続く痛みをまといながら、ドマの復讐だけを生きる糧に進み続けるのです。その男の姿は凄惨。しかしどこか心を惹かれる強さがあります。
はたしてアグニの行く末にはどんな結末が待っているのでしょうか?奇想天外な展開も一緒に楽しんでみてください。
『ファイアパンチ』についてはこちらの記事で紹介しています。気になる方はぜひご覧ください。
『ファイアパンチ』衝撃作の魅力を全巻考察!【最終8巻ネタバレ注意】
本作は、2016年9月に宝島社から発表された「このマンガがすごい!」ランキングの「オトコ編」で1位に選ばれた作品です。少年漫画とは思えないような、過激なテーマを扱っており、話題を呼んでいます。今回は、そんな本作の魅力を紹介していきます。 ネタバレも含みますので、ご注意ください。
土屋ガロン原作、嶺岸信明が作画を担当した『オールドボーイ』は、中年男性・五島慎一が主人公。彼は古いコンクリートビルの一室に、実に10年もの間監禁されていました。1日2回の食事とテレビだけが与えられた部屋で己を鍛え続けた五島は、解放されたことをきっかけに、自分を監禁した人物を探し出そうとします。
- 著者
- 土屋 ガロン
- 出版日
作中で人の監禁を請け負う犯罪組織が提示した、1日にかかる監禁費用は30万円。10年間で3億円という莫大な金額です。美女ならいざ知らず、なぜ中年の五島を、お金をかけてまで監禁する必要があったのか。それが、物語最大の謎であり、焦点になります。
五島による、監禁した相手への復讐劇だと思われる本作ですが、実は五島が復讐をされる側であることに気づきます。平凡な男であるはずの五島に復讐をしたのは、大富豪の柿沼。大金持ちであり、社会的成功を収めている男です。2人の接点は実は幼少期にあり……。
柿沼は、異彩を持つが故の孤独を抱えています。五島の行動により、どんなに成功を収めても孤独感に苛まれ、絶望に侵され続けていた柿沼は、成功するはずだった人生をめちゃくちゃにした五島に深い恨みと憧れを抱いていたのです。
韓国で映画化され、その陰惨さが話題となった本作。映画よりも内容はグロくはなく、比較的ライトであると言えます。しかし、幼少期のたった一度の挫折を味あわせた人物に対する執着と怨みに、人の業の深さを思わずにいられません。復讐に果ては無く、終わりがない暗く長い道なのだと実感できる作品です。
『オールドボーイ』については以下の記事で紹介しています。気になる方はぜひご覧ください。
名作ハードボイルド漫画『オールドボーイ』の魅力をネタバレ紹介!
韓国で映画化もされた本格ハードボイルド漫画『オールドボーイ』。理由も分からずに突然軟禁された普通の男が、10年後にようやく解放され、そこからこの悲劇の謎を追い始めるというストーリーです。今回は本作の魅力をご紹介!ネタバレありなのでご注意を。
犯罪被害者やその遺族は常に理不尽な立場に立たされています。自分や家族が失われ、傷つけられているのに、嘆くことも、声高に復讐を口にすることも、行動を起こすことも許されません。ただじっと口をつぐみ、正しく法の裁きが下ることを願い続けるのです。
- 著者
- 松本 次郎
- 出版日
舞台は犯罪被害者や遺族が、一定のルールに基づいて合法的に復讐できる法律、通称「敵討ち法」が施行された世界。戦時下ということもあり、世界は混迷を極めていました。
敵討ちを代行する業者「カツミ執行代理人事務所」の敵討ち執行代理人である叶ヒロシは、地味ないでたちをした眼鏡の青年です。特殊部隊出身という卓越した能力を持ちながら、他者への共感性が不十分で、精神的に不安定な状態で日々を過ごしています。そして謎の女、ヒグチの思惑により戦いの現場に身を置くことになったヒロシは、執行代理人として、対象者および警護人たちとの戦いの中に身を置きます。
松本次郎作『フリージア』は、合法的に敵討ち、つまりは復讐ができる世界を描いた作品です。ヒロシの性格が難解なこともあり、解釈が難しい作品としても知られています。
この作品に、まともな人は登場しません。皆どこかぶっ飛んでいて、読者の共感をはねのける独特なパワーを持っています。それは公正な物差しを持っていないという事実に起因するように思われます。
実は敵討ち法は、日数や人数、武器は指定されているものの、犯罪の重さやその理由を問うような項目はありません。書類を申請し、裁判所が受理し、対象者へ書類が渡ったその4日後から、血で血を洗う復讐が開始されてしまいます。命の償いは命でしかできず、また救われることは無い。そこにあるのは、間違いなく狂気だけなのです。
本作品は公生なルールが存在しない世界なので、まっとうな人間は存在しません。皆どこか歪んだ狂気を持ち、だからこそ人間臭くもあります。作中で正義感を見せる敵討ち執行代理人の山田一郎は先輩の溝口に対しこう言います。
「こういう仕事を叶さんや溝口のような人間にやらせる訳にはいかない。僕のようなちゃんとした人間が責任をもってやり遂げなければ」(『フリージア』より引用)
人を殺すということが敵討ちという法の下に行われる世界の正義は、報復によって守られていると感じるセリフです。
復讐に至る理由は様々でも、その暗く沈んだ決意の中に、様々な葛藤が見え隠れします。復讐はただ残忍な行動を見せるのではなく、様々な立場にいる複雑な人間の心理を映し出す行為でもあるのです。人の強い感情が行き着く果ては、もの悲しいものである。本作品は復讐を描いたものの中でも特にそれを教えてれるものでしょう。
『フリージア』の作者・松本次郎のおすすめ作品を紹介したこちらの記事もおすすめです。気になる方はぜひご覧ください。
松本次郎のおすすめ漫画5選!映画化された『フリージア』など
「エログロ」とも評される作風が人気の漫画家、松本次郎。2007年には『フリージア』が実写映画化され、さらにその名を知られるようになりました。今回は、そんな彼の作品のなかでも特におすすめの5作をご紹介していきます。
復讐は、誰かを憎む強い気持ちから発生する行動です。18作品はいずれも様々な原因がありますが、その根底にある感情は同じもの。憎しみという強い感情と供にある物語は、その結末を含めて完成されます。18通りの復讐劇、その強い感情が生み出した物語をお楽しみください。